幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない

第59章（最終章） 『永遠の手——夫婦として紡ぐ未来へ』

夜の気配がゆっくりと深まり、
マンションの窓からは
都会の灯りが静かに瞬いていた。

由奈はベランダの近くに立ち、
夜風の涼しさを感じながら外を眺めていた。

（あの頃のわたしは……
泣いてばかりで、不安ばかりで……
未来なんて考えられなかったのに）

今は違う。
隼人の隣に“未来”がある。
その事実が胸を柔らかく満たしていた。

背後から気配を感じた。

「……寒くないか？」

隼人がそっと近づき、
由奈の肩に自分の上着をかけてくれた。

その動作ひとつで、
胸がじんわり温まる。

「隼人さん……
なんだか、不思議です」

「何が？」

「こうして未来を考えることが……
怖くなくなったんです」

隼人はゆっくりと由奈の横に立ち、
夜景を一緒に見つめた。

しばらく静かな時間が流れたあと、
隼人は由奈の手をそっと握る。

「由奈」

「はい……？」

「これから先、
何があっても……俺は由奈の味方だ」

由奈の胸に、
温かいものがじわりと広がる。

隼人は続ける。

「俺の手は、
もう二度と離れない」

その言い方には強さと優しさが溶けていて、
由奈は自然と隼人の手を握り返した。

「……離れません。
わたしも……離れたくありません」

隼人は由奈の手をきゅっと握りしめ、
横顔をこちらへ向けた。

「由奈」

（あ、これは）

由奈の心臓が小さく跳ねた。

隼人は由奈の髪をそっとかきあげ、
額にやわらかく唇を落とす。

「……愛してる」

その言葉は、
ゆっくりと、深く、確かに落ちてきた。

由奈は思わず目を閉じ、
胸にあふれる温度に頬を染めた。

「……隼人さん。
わたしも……
ずっとずっと……愛しています」

風がやさしく二人の間をすり抜け、
指先まで温かい。

隼人は由奈の手を包んだまま、
ほんの少し身体を寄せた。

「夫婦って……
こうして未来を一緒に見るものなんだな」

「はい……
隼人さんとなら」

由奈は微笑み、
肩を隼人にそっと預けた。

隼人はその身体を受け止め、
優しく抱き寄せる。

「じゃあ、これからも……手をつなごう」

「……はい」

夜景の光が瞬いている。

どこまでも続く未来の道を
二人で歩いていくように。

隼人は由奈の指を絡め、
もう一度、静かに言った。

「永遠に。
離さない」

由奈は目を閉じ、
隼人の胸に小さく頷いた。

もう迷わない。
もう怯えない。

由奈の“未来”は、
この温かな手に導かれていく。

そして隼人の“永遠”は、
由奈の笑顔とともにある。

二人の影はもうどこにもない。

ただ、愛だけがあった。

——それが、
片岡隼人と由奈の
“夫婦としての未来”の始まりだった。