風に舞う桜
第1章
春暁
『死ぬほど暑いから先に行ってるよ~』
『えー、悲し。了解』
トイレから出ると、友達からのメッセージに気が付き、そのメッセージに私はすぐに返信をした。
今日は高校の校外学習で資料館へ来ているが、着いたと同時にトイレへと駆け込んだ。
置いていかれるんだったら、資料館内のトイレへ行くべきだったと ひとり反省。
まだ5月半ばだというのに、今日はまるで真夏のような暑さだ。
その暑さに耐えきれなかったのか、友達はひと足先に館内へ入ってしまったらしい。
「あっつ……」
トイレの外には日陰がなく、立っているだけで肌が焦げそうだ。
誰に聞かれるわけでもない小さな悪態をつきながら、私は逃げ込むように資料館へと足を運んだ。
二階建ての資料館には、第二次世界大戦当時の人々の暮らしや、戦死した方々の遺品・遺書が展示されている。
中へ入って見渡すと、同じ紺色リボンのセーラー服の制服を着た生徒の姿はあるものの…。
先に入ったはずの友達の姿が見当たらない。
どこへ行ったんだろう。
周囲をきょろきょろと見回しながら、私は奥まった展示スペースへと歩みを進めた。
しかし、そこに生徒はおらず、
ただひとり、白髪の年配の女性が杖をつきながらベンチに腰かけているだけだった。