年下研修医の極甘蜜愛

 彩が疑うように目を細める。仁寿がそれを笑ってかわすと、タイミングを見計らったように信号が青に変わった。駐車場から仁寿のマンションまで、裏道を通れば十分もかからない。


「じゃあ、僕はシャワーを浴びてくるから、彩さんはリビングで待ってて」


 玄関で靴を脱ぐと、仁寿はそれだけ言い残してさっさとバスルームに行ってしまった。車の中で、体がベタベタして気持ちが悪いと言っていたから、彩は特に気にとめずリビングに行く。

 そして、リビングに入って瞠目した。ダイニングテーブルの上には何冊もの本が散乱して、ソファーの前にあるテーブルにも雑誌が広げられたままになっていたからだ。


「わぁ……、これはすごい」


 内科と違って救急はとにかくハードだと、別の研修医からも聞いている。仁寿が仮眠をとる暇がなかったと言っていたのを思い出しながら、彩はテーブルに広げられている薄っぺらな雑誌に手を伸ばす。それはどこの医局にも必ずある、有名なイギリスの医学雑誌だ。幅数ミリの天と前小口に、朱色で病院名が押印されている。どうやら、総合病院の図書室から借りてきたらしい。

 開いてあるページを閉じないようにテーブルの隅に雑誌を寄せて、次はダイニングテーブルに散乱した本をそろえて積み重ねた。キッチンはきれいに片づいていたから、ソファーに腰かけて仁寿を待つ。しばらくすると、すっきりとした表情の仁寿が、左手に掛布団を右手にコミック数冊を持って颯爽とリビングにあらわれた。


「本を片づけてくれたんだね。ありがとう、彩さん」


 リビングを見回した仁寿が、彩に笑顔を向ける。メガネのせいで、笑顔の好感度がいつもより増している気がする。


「毎日、忙しそうですね」

「忙しいのかな……。なんか時間が足りない。僕の要領が悪いのかもしれないね」


 はい、と仁寿に渡されたコミックを自然な流れで受けとって、彩がソファーの端に寄る。すると、仁寿がメガネをテーブルに置いてソファーの上に寝転んだ。ソファーの幅は仁寿の背丈に足りないから、必然的に彩の太腿が枕になる。


「な、なにしてるんですか?」

「お昼寝」


 太腿に乗った仁寿の頭部を驚いた顔で凝視する彩にかまわず、仁寿がクッションを器用に使って首が痛くならないように体勢を整える。それから仁寿は、長身の体を丸めて肩まで掛布団をかぶった。
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