「こぶた」に婚活は難しい〜あなたの事なんて、狙ってませんから。〜

最悪の1人目(1)

 林倫子(はやしりんこ)は心の中で頭を抱えた。

「誰か、嘘だって言ってーーー!!!」

◆◇◆   ◆◇◇  ◆◇◆  ◆◇◆

ここは婚活ツアーの大型バスの前。バスに乗り込む前の彼女は曇った空でさえ、美しいと感じるくらい期待でワクワクしていた。

彼女の名前は林倫子。
岩手県から上京してきた22歳。ご飯を食べる事が大好きで作るのも好きなので調理師になり、東京の大手企業の社員食堂で働いている。身長は154センチと小柄でぽっちゃり体形。3時のヒロインかなでに似てると言われる事もあるが、目がクリっとしているので家族からは“口いっぱいに頬張ったリス顔”と比喩されていた。

「はい。林倫子様ですね。本日はようこそいらっしゃいました。ツアー、楽しんで下さいね。」
とバスの入口ドアの下で受付をしていたスタッフの女性からツアーのネームに番号が書いてあるバッチを受け取り、バスに乗り込んだ。
 「3番かあ。えっと。私の席は…と。」
 ドアに貼られた座席表を見ると、前から3列目左側。座席の隣にはすでに男性が座っていて、私をチラリと見るなり軽く会釈をしてスッと目線をバスの外に向けた。
「……。」
倫子はちょっと暗い気持ちになった。そりゃ私はぽっちゃりしてて、美人ではない。だからってまだ話もしてないのに決めつけちゃうのはどうよ?
(ふっ。あんた、優良物件をのがしたわね。)
もともと前向きなのが持ち味の彼女は、さして気にすることなく席に着こうとしてふと、後部座席の人物が視野に入った。

ガバッ!

素早く座席に座る。隣の男性は嫌そうな顔をして少し体をずらした。
「あ、す、すみません。」
倫子は謝って前を向いたが心臓のバクバクが止まらない。
(え。ウソ。さっき見えたのは見間違いだよね?
あはは。こんなところに“あの人”がいるはずないじゃん)
倫子は、ハアと息をもらして首を振った。

「ねえねえ。奥の席の人、かっかよくない?」
「私もそう思ったー。今回のツアー、あたりかもねー。」
隣の座席の前後で女子2人が楽しそうにしゃべっている。きっと友達同士で申し込んだんだろう。
 2人の目線は奥の席に座る男性に釘付けだ。ドキドキ。私も振り返って見てみたい。でも。さっきチラリと見えた人が、“あの人”だったら?人違いじゃなかったら?
 (ど、どうせ、バスを降りたら見れるじゃん。今、リスクを冒さなくたっていいんじゃない?)
私は好奇心を抑えて後ろを気にしないようにした。

「はい。皆さん、おはようございますぅ。」
スタッフさんの声に我に帰ると、どうやら全員揃ったようで、マイクを持った女性スタッフさんがツアーの説明を始めるところだった。
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