天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
……と思っていたら、志季子がシュンとした。
「やっぱり、似合いませんよね、こういうの」
「バカ。似合いすぎてて困っているんだ」
俺は眉間を揉みながらため息をつき、さっさと志季子を風呂に連れ込む。
入ってしまえば少しは視線もマシだろう。
風呂というよりはプールのような浴槽は、広々と気持ちがいい。天井まであるはめ込み窓からは摩天楼が一望できる。
「わー……ビル街見下ろしながらお風呂って贅沢~」
「夜も綺麗だろうな」
答えながらずいぶん遠くに来たものだなと思う。距離的にも、……最初はいけすかないと思っていた志季子が俺の一番大事な存在になったことにも。
「でしょうねえ」
志季子がのんびりと答えて、俺はなんだか胸を突かれた気分になる。
幸福を感じているらしい。彼女と出会う前は知らなかった感情だ。
日本の風呂事情と比べるとかなりぬるい。とはいえしばらく入っていると汗をじんわりとかいてきた。
「バーがあるんだが、行ってみるか?」
浴槽からあがりながら聞くと、志季子は嬉しげに目を細める。
「へえ、素敵。ぜひ」
はしゃぐ志季子にまたもや視線が……くそ。
俺はすぐさまバスローブをレンタルして彼女に着せた。
これだけ魅力的なのに自分に自信がないって、本当に不思議だ。
入院中は暇だった。
論文でも読み漁ろうとしていたのに『せっかくなので療養に専念してください』と志季子にタブレットを取り上げられたのだ。
ごろごろしながら本を読む。
適当に彼女が本屋から買ってきた小説だのアメコミだのを読む。
結果わかったのは、俺はどうやらわかりやすい勧善懲悪ものが好きだということだ。
志季子に話すと、「そうでしょうね」と納得していた。
「そうか? 自分でも意外だったんだ」
「え、だって宗司さん、割と正義感強いじゃないですか」
「俺が?」
俺はとても不思議に思う。
正義感が強いのは志季子のほうだと思っていたから。
帰国してすぐ仕事に復帰……というわけにはいかなかった。治療プログラムの通り、日本でも薬の投与を受けながら徐々に仕事の負荷を増やしていく。
池崎派の残党がいるせいでまだ病気のことは公表できない。
ただ池崎自身が病院から去ったことで、ほぼ後継と決まった俺が忙しくするのは周囲から見て違和感はないようだった。