天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

 志季子は恥ずかしがって抵抗したけれど、知ったことか。水滴を浴びながら俺に貪られ、乱れる志季子はひどく淫らで艶やかで美しかった。
 うなじにキスを落とし、跡を着けながら腕に彼女を閉じ込め、くるおしいほどの愛おしさに泣きそうになった。
 ぐったりとした志季子をベッドに運ぶ。
 真っ白なシーツにに、くったりと横になる志季子。
 普段くくっている艶やかな黒髪がシーツに広がり、軽く横を向いた顔は美しく、まるで絵画のように見えた。

「あ……」

 自分が一糸纏わぬ姿と気がついたらしい志季子が、緩慢な仕草で胸を隠そうと腕を動かす。
 俺は微笑み、その手を掴み、そうして──薬指に指輪を嵌めた。
 ダイヤモンドがきらりと煌めく。
 志季子に恋をする前なら、こんな石に意味があるのかなんて考えていただろう。
 でも今は違う。そこに気持ちを込めているものなのだ。──と、思う。

「これ」

 志季子が左手を自分の前にかざす。
 目元にさっと朱色がはいた。
 美しいと思ってくれているのが、手に取るように分かる。

「受け取ってくれないか?」

 彼女を逃す気なんてないのに、式の日程だって決まりかけているのに、それでも今更でも拒否されるのではと一瞬不安になる。
 好きだからだ。
 けれどそんな恐怖とは裏腹に、彼女は俺に向かって手を伸ばした。
 とても幸せそうに、眦にダイヤより美しい涙を湛えて、にっこりと微笑んで。

「──志季子」
「私でいいの?」
「君がいい。君だけが、俺のお姫様なんだ」

 再び唇が重なる。愛おしさで胸が張り裂けそうだった。




 翌日からは病院とホテルの往復だった。
 検査に次ぐ検査、そして治療方針の話し合い。
 英語は苦手だと言っていた志季子は堂々としたもので、こちらでの俺の主治医に『プロフェッサー・ソノオカと一緒にこちらに来ませんか?』と誘われる始末。
 むっとした俺に笑いながら、彼女は日本でやりたいことがあると断っていた。正直、ホッとした。

 志季子は他の患者の治療プログラムの見学や、症例研究会に参加して精力的に動いていた。
 それは彼女の意志であるのは間違いないのだろうけれど、やはり気が張っている気がして――俺は例のごとく、彼女を連れ出した。
 行先はもちろん、温泉だ。

「スーパー銭湯……ではないですよね? まさかダウンタウンに」

 車を降り、建物を見上げて志季子が首を傾げる。

「温泉、スパ、サウナ、岩盤浴がそろっているらしい」
「スーパー銭湯だ!」

 志季子が頭を抱えて「カルチャーショック」と叫ぶので思わず笑った。

「むしろ日本文化だろうに」
「それはそうなんですが……あれ、じゃあ外国の人が日本に来て温泉にびっくりしているのは?」
「水着じゃないからじゃないか?」
「ああ、そっか。水着……なんて持ってきてないですよ?」

 不思議そうな彼女に俺は笑い、手にしていたボストンバッグから紙袋を取り出す。

「プレゼントだ」
「わあっ、水着ですか? ありがとうございます。でも私、最後に着たの高校生のときなんですよねー……着られるかな」
「君は綺麗だから大丈夫だよ」

 そう太鼓判を押していたけれど、正直俺は後悔していた。

「そ、宗司さん。この水着、ちょっと、布面積がっ」

 真っ黒のセパレートタイプの水着を買ったのは、志季子に似合うだろうと思ったからだ。
 黒い髪、白い肌によく映える黒い水着。モノトーンの色彩で、唇だけがほんのりと赤。
 こうしてみるとかなりスタイルがいい。
 柔らかなふくらみに自然と目が行っているらしい他の客の視線から彼女を隠す。くそ、失敗した。
< 99 / 119 >

この作品をシェア

pagetop