天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
頸椎カラーと低体温を防ぐ金色のアルミックシートに包まれストレッチャーで運ばれてきた志季子の頭部は、真っ赤な血で染まっていた。
ぐったりと、目を閉じて微動だにしない。
走り出して縋りつくのを理性で抑え込む。だめだ、ここでパニックになれば彼女は助からない。――助からないかもしれない!
すぐさま処置台に移し、処置を開始した。
「挿管するから吸入用意、あと生食に薬剤いれて投与開始」
指示を飛ばしながらエコーを開始。
胸部や身体も強く打っている、心臓に心嚢液は? 溜まっていないのをすぐさま確認する。腹腔内出血は?
治療しながらCTも撮る。今のところ脳に損傷はない。
「一応ラリンゲルマスクも出しといて」
モニターに目をやる。血中酸素は改善してきたが血圧が変わらず低い。
輸液を入れて血圧を上げて……と、志季子の顔を見た。見てしまった。白い志季子の頬にべっとりと付着した血液。赤と白。
……薬剤を入れて、その後どうするのだっけ。
手足が冷えて頭がジンと痺れる。
志季子の瞼が閉じられている、朝まで笑っていた赤い唇が真っ青だ。
一瞬俺が自失した間もスタッフは的確に動いていく。俺と一緒にやってきてくれたスタッフ、志季子の一喝で俺は彼ら彼女らを大切にできた。彼らが志季子を救命するため頭をフル回転させている。
息を深く深く吐く。
恐怖が身体を強張らせていた。
だが、恐怖がなんだ、そんなもん殴り飛ばす。
俺はすうっと息を吸い、意識して声を強くする。
「過換気気を付けて。Aライン留置して薬剤の流量管理、エコーガイド下でやろう」
「わかりました!」
「四分おきに投与。血液ガス分析は?」
俺は医者だ。
でも俺だけが医者ってわけじゃない。
顔を上げると、信頼するスタッフたちが俺を見ていた。俺は頷く。うまくやってやる、これが試練なのなら超えてやる。
だから神様。いたとしたら……だけれど、神様。
志季子を連れて行かないでください。
俺は生まれて初めて、目に見えない誰かに必死で祈った。
すべてうまくいったはずなのに、志季子は目を覚まさない。
彼女が搬送されてから、一日半。
ICUのベッドに横たわる志季子は真っ白なシーツの上で微動だにしない。血圧も心拍も正常なのに、目だけを開かない。点滴に繋がれた細い腕、傷だらけの身体。レスピで呼吸を維持していた。