天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
昨日すぐに行ったCTでも、今日おこなったMRIでも、脳に異常はない。
穴が開くほど画像を見つめた。
俺だけじゃない、脳外科のどのドクターでも見つけられなかった。
おそらくCT等で見えない場所に出血があるのでは――と推測している。
ほんの、微量の。繊細な脳はそれだけで動かなくなる。
「志季子」
呼ぶ声が掠れていた。手を握る。彼女の指先は全く力がこもっていない。
だらんと、意思のない筋肉の感触がする冷たい指先を擦る。
熱がこもるように、動かせるように。
そうしてもう一度「志季子」と呼んだ。
ひどく空虚に響いて、俺はゆっくりと瞬きをする。
これが悪い夢で、目が覚めるようにと願いながら。
でも彼女は瞼を開かないし、そのきれいでまっすぐな瞳に俺を映さない。
「志季子」
短く切られた爪を擦る。その手を自分の額に当てて、ぎゅっと目を閉じた。
なあ、目を開けてくれよ。俺を呼んでくれよ。
他に何もいらないから。
感情のどこかが、ずっと麻痺している気がする。
「香月先生……」
申し訳なさそうな声が背後から聞こえる。振り向けば、看護師が眉を下げて立っていた。
「警察の方がいらしています」
「警察?」
志季子を助けることに必死で、彼女が目を覚ましてくれればと必死で、すっかり頭から抜けていた。