天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
全部やるよ、もう。
俺の全部をあげるから──だから、頼む。
祈るように彼女の顔を見つめる。
うっすらと、その目が――開いた。
「志季子」
滲んで掠れた声だ。志季子はうつろに瞳を動かし、俺を見つけて――目だけで、ぎこちなく微笑んだ。
俺はそっとその両頬を包む。
「志季子」
彼女の唇が微かに動く。
俺はモニターで血圧や脈拍を確認し、すぐに彼女に視線を落とす。すべてがうまく言葉にならなくて、俺はただ「愛してる」と繰り返し、彼女を抱きしめる。
か弱い力で、彼女が俺の白衣を掴む。
俺は彼女の頭に頬を寄せ、息を吐く。
長く、細く、肺の空気を押し出した。
そうしないと、みっともなく泣いて縋ってしまいそうで。
そっと顔を伺い見れば、はく、と志季子が唇を何か言いたげに動かした。
二週間近く意識がなかったのだ、うまく身体が動かないのだろう。
「ん」
俺は彼女の手を握り、じっと目を見つめる。
そうしていると、また想いが溢れてきて、俺は彼女の手を自分の額に押し当て、彼女の目を見つめる。
「愛してる、志季子」
すると、志季子が瞳にほんのちょっと、悪戯っぽい色を浮かばせた。
キョトンとしている俺に、彼女が唇を動かす。
声を聞くために耳を寄せると、掠れ切った、ほとんど音になっていない声で、それでも彼女は笑って告げる。
「愛さないなんて言っていたくせに?」
ふふ、と笑って志季子が俺をからかった。
俺はぽかんとして、それから目を柔らかに細める。
細めたせいで、なにか頬を伝っていったけれど、今日くらいは見なかったことにしてほしい。
「だよな。……全く、本当にどうかしている」
俺はそのまま志季子をもう一度抱きしめる。
「守れなくて、ごめん。目を覚ましてくれてありがとう。俺、君がいないとダメみたいだ」
そう言葉にした俺に、彼女がすり寄る。そのわずかな動きさえ、全力で、必死にやってくれたのだとわかった。
「愛してる、志季子」
「宗司、さん」
掠れた声が耳元で俺を呼ぶ。ああ、名前を呼ばれた。それだけでよかった。報われた。
「ね、……助けてくれて、ありがとう」
俺はぱっと彼女の顔を見た。志季子は一生懸命に目を細める。
「ずっと声、聞えてたの」
「そうか」
「うん」
「そうか……」
俺はもう、それしか言葉にならない。
春の終わりの日差しが、燦燦と降り注ぐ、白い病室。
「おはよう、俺のお姫様」
俺はそう言って、ただ、最愛の人を抱きしめ直す。
もう二度と、傷つけさせない。