天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

「僕の執務室までいいかな」

 私は頷き、彼に続く。

「じゃあ、お疲れさま。患者さんたち頼みますね」

 教授はナースステーションに向かってにこっと微笑む。彼はすべてのスタッフを平等にみている、私の規範になっているドクターだ。こうありたい……。

 香月先生や池崎先生みたいに、自分以外全員見下しているような医者にはなりたくない。

 この病院は、大学のキャンパスも同じ敷地内にあり、建物同士も繋がっている。とはいえかなり遠い。

 内廊下になっている渡り廊下を経て、閉まっている院内カフェの前を通り、さらに今度は外廊下型の渡り廊下を渡って大学の建物に向かう。

 お昼間だったら、黄色い銀杏が舞うのが見えたはず。頬を撫でる、ぴゅうと冷たい秋の夜風が一つ結びにした髪を揺らす。

内科学第三講座の、まだ明かりがついている研究室と事務室の前を通り、執務室に入った。

「どうぞ座って。夜遅くにすまないね。帰るところじゃなかったかい?」
「いえ、伊藤にちょっと相談があっただけで。どうされましたか?」

 向かい合って応接ソファに座ると、すぐに教授は話し出した。

「実はね、来年、定年したらアメリカに行こうかと思っているんだ」

 教授が口にしたのは、アメリカにある大規模な医療研究施設の名前だった。

「本当ですか! すごいじゃないですか……!」

 思わず立ち上がりかけると、教授は苦笑した。

「知人に誘われてね。こちらに残ることも考えたんだけれど、探求心に勝てなかった」
「教授が携われたら、おそらく今の何倍も研究が進みます、患者さんが助かります。寂しく、なりますけど……」
「はは、そう言ってくれてありがたいよ。それで、いま診ている患者をみなに任せたいんだけれど……そのうちのひとりを、君に担当してもらいたいんだ。誰にもばれないよう、秘密で」

「秘密……と、申しますのは?」
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