天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
「でも、知ってる? 志季子」
「なあに?」
「池崎先生って、香月先生の遠縁なんだって」
「へえ?」
「で、この病院を継ぐ可能性があるって。遠縁が送り込んだ刺客らしいよ」
「ええ」
刺客ってその言い方、と思いつつも、私は眉をしかめた。
「それはちょっと……人望という点で、こう」
「あははは、はっきり言うよね、志季子」
「だって……でもそれでか。やたらと病床の埋まり方とかに口出しているなあとは思っていたの。効率よくとか、利益率とか、よく言ってるじゃない?」
池崎先生の本音は赤字部門の縮小だ。
どこの病院でもそうなのだけれど、たいてい赤字といわれるのは小児科と救急、おそらく市民生活でなくなっては困る診療科トップ2である。
「でしょ? あたしたち的には、パワハラひどくて腕も微妙な池崎先生よりは、まあ少々俺様でも腕がよくて患者さんにも慕われている香月先生のほうがいいかなって。香月先生、意外にスタッフの面倒見もいいでしょう」
「まあね、昔に比べたらね」
それにしても俺様成分は“少々”かな?
川上さんが首を傾げた。
「伊藤さんと吉武先生って仲がいいんですね」
「うん、高校の同級生」
答えると、川上さんは「へえ!」と目を丸くした。
「そうなんですか」
「そうなの~。志季子は高校の時から頼れる姉御肌だったの。池崎先生の他にも困ったことがあったら、志季子に頼ったらいいよー」
「こら、亜香里。でもほんと、何でも言ってね、川上さん。頭の固い、看護師の言うことなんか絶対聞かないってオッサンドクターもいるから」
任せて! とガッツポーズして見せると、川上さんがペコっと頭を下げる。と、廊下の向こうから足音がした。
「あ、吉武くん。いたいた、やっぱりここだった」
「あれ、園岡教授。どうされました」
園岡教授は、定年間際の内科医だ。免疫疾患の専門家で、おそらく国内で彼の右に出る人はいない。私の恩師でもあった。
「実はちょっと相談したいことがあって、患者さんの様子診るついでに来たんだ。……ちょっとだけ、いいかな」
微かに真剣な声音を感じ、顔を引き締めながら立ち上がる。なにかトラブルだろうか?