天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
「そう言われると思いまして。どうぞ」
教授は鞄からタブレットを取り出し、香月先生に渡す。
「これは?」
「彼女の論文です」
教授が答えると、香月先生は鼻に皺を寄せつつもタブレットに視線を落とし、目線を動かしだす。
それだけで、彼がものすごいスピードで文章を読んでいるのかがわかった。
……趣味、論文を読むことみたいな人だからなあ。
緊張しながら彼を見つめていると、扉がノックされ、料理が運ばれてくる。
「こちら、前菜の六種盛りでございます。手前から、蒸し鶏とキノコのマリネ、ピータンのクリームチーズ和え……」
美味しそう、とチラっと香月先生を見るも、彼はタブレットに集中していてこちらにも料理にも視線をよこさない。どうしたものかと思っていると、「よし食べましょう」と理事長が箸を持った。
「で、ですが」
「宗司が集中したら他が目に入らなくなるのは昔からのことです。というか、入ってはいるのだろうけれど、意識的に外されているというか」
世間ではそれを無視という。
ご家族に対しても俺様なのか。どう育ってきたか気になる。理事長と教授にならい前菜に箸をつけつつ、理事長の話を聞く。
「子供のころ、宗司のこういう性質にはこいつの両親もほとほと困っていましたが、なにをしても治らないというか、まあ、生まれつきというか」
明朗に断言され、ずっこけたくなる。なんて筋金入りの俺様!
そのまま理事長は、なぜ香月先生の治療がごくごく秘密裏に行われているのかも説明してくれた。
「池崎先生、本当に刺客だったのですか」
私は驚き、北京ダックを取り落としかける。理事長が首を傾げた。
「刺客?」
「あ、は、はい。スタッフ間でそのような噂が」
「はは、中らずと雖も遠からずだな。わたしに反感がある遠縁が、あの子を後継者候補として送り込んできたのだよ。ただ、わたしとしては、あの子はあまりそういった器でないと感じているね。医師としてもまだまだ勉強がたりない」
「です、ね……」