天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
「家全体のセキュリティはしっかりしている。ハウスキーパーが来るのは週に二回。庭の手入れは適宜。なにか質問は?」
「ええと、食事は」
「各自好きに。もし家事サービスの提供を希望するなら言え」
「いえ、大丈夫です」
「そうか」
そのまま彼は自室に引っ込もうとする。私は慌てて彼の腕を掴んだ。
「なんだ?」
「ご体調は?」
「変わりない」
「診察だけさせてください」
「必要ない」
「させてください」
にこっと微笑むと、香月先生は苦虫を嚙み潰したような顔をして私をリビングに案内した。
絨毯が敷かれた洋間で、窓から庭の様子がよく見える。広すぎて間取りがよくわかっていなかったけれど、外が見えてなんとなく頭に図を広げる。
ソファに座って体温を測ってもらい、鞄から聴診器と個包装のディスポーサル舌圧子を取り出す。喉奥の診察で使う器具だ。
「舌出して『あー』って言うのと、これ使うのどっちがいいですか」
「……それ使ってくれ」
一体どんな感情が彼に去来したのか、複雑な顔をされる。
私はついクスクス笑いながら、心音と口内、喉の診察をする。
この病気はまず咽頭炎によく似た症状や口内炎、気管支の腫れといった、一見すると風邪のように思える症状から始まるため、そこを見逃さなければ初期対応が可能だ。
逆に言えば、「風邪かな」と思っている間に症状が劇的に進行してしまうという側面もある。
「発熱もないし、喉も呼吸の音も綺麗です。非常にいい調子かと思います」
聴診器を片付けながら言うと、先生は「ほらな」と言わんばかりの顔をした。