天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

 そうして、同居開始から一週間。香月先生の治療を本格化させることになった。

 というのも、現在投薬である程度症状を押さえているのはいいものの、現状減薬できる状態ではないからだ。結構強い薬なので、数年単位で減薬していけるのが望ましいと、教授とも話し合っていた。


「まあ釈迦に説法もいいところですが」

 と前置きして、VIPエリアのある病棟へ歩きながら香月先生に治療について説明する。

 ちなみに私も彼も、病院での就業時間は終わっている。救急は、今日は比較的静かなようだ。救急車のサイレンの音が聞こえない静かな廊下には、ぼそぼそ話す私の声と、私と彼の足音が響いていた。

 今後、彼には症状改善のため点滴治療を受けてもらうことになる。
 輸血から生成された、血液中の抗体に関わるたんぱく質を薬にしたものだ。

 今回使うのはアメリカでは使用実績があるものの、まだ国内未承認である種類の薬。つまりめちゃくちゃ高額な治療となる……が、香月先生は二つ返事で了承してきた。

 効くと断言もできないのに。

 そこに彼が口に出さないものの、私に対する信頼があるように思えてどこか面はゆい。

 まあ、彼にとってはそう高額でないという面もあるのかもしれないけれど。

「これで効果が実証されたら、新薬承認も近づきますからね」

 エレベーターのボタンを押しながら香月先生を見上げる。先生は「だといいな」と少し真剣な声で言う。

 やっぱり彼は、自分より患者さんなんだな。

 その辺は尊敬できるのよねえ、と開いた扉に乗ろうとした瞬間。

「わあ、おふたり揃って」

 エレベーターから下りてきたのは亜香里だった。私と香月先生を交互に見て、それから意味深ににっこり笑って会釈をした。
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