天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
私は自室で私服に着替えると、キッチンに戻り食事する香月先生を背に調理を開始する。
「まずは、豚に片栗粉、っと」
サンマで怒られたので、レシピをきちんと読むことにしている。勘でタイマーを設定してはいけないくらいの学習能力はあるのだ。
「で、茄子を……茄子ってどう切るのかな」
スマホのレシピサイトでは「茄子を乱切りにする」と切った後の写真が乗せられているだけだ。
うーんと首を傾げ、この形状になるならこうだろうと包丁を握る。
「おい、待て待て待て」
背後から声が聞こえてビクっと肩を揺らす。
「な、なんですかいきなり。危ないでしょ」
「君の包丁の握り方が危なっかしかっただけだ。ほら、貸せ。こう切る」
「え……はい」
目を丸くしながら彼に場所を譲ると、彼は「ほら、ここから切れば茄子が無駄にならない」とか。「先に斜めに切るんだ」とか、解説付きで切ってくれる。
「へえ~」
「君は家庭科の授業中何をしていたんだ? さっきの豚だって片栗粉をつけすぎだし」
「うーん……授業、ですか。あんまり覚えていないですけど」
ケーキを作って、みんなで食べたことは覚えている。あと、授業自体は毎回楽しかったことも……家庭科の先生、優しくて大好きだった。
でも、かといって細かな内容までは、さすがに記憶にない。
「なぜ」
心底不思議そうに聞かれ、「あの」と小さく問いかける。
「もしかしてなんですけど」
「なんだ」
「子供のころの授業の内容、はっきり覚えてるんですか」
「逆になんで忘れるんだ」
私は開いた口が塞がらなかった。この人の記憶メモリ、どうなってるの?