天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
「ずいぶんいい調子ですね。元気になってよかった」
そう言って吉武が笑った。
キラキラとなにか粒子が舞った気がして顔を逸らす。
まさか、だ。そうだ、ありえない。
ちょっと体調が悪い時に世話をされて好感を抱くほど、俺はちょろい男じゃない。
断じて、ない。
あいつが気になるのは単純に、医師としての関心だろう。きっとそうだ。
※※※
「……どこへ行くんだ」
お互いの休日が被ったのは、吉武が引っ越してきた日を除けば今日が初めてだった。いつもより少し長く眠って、起きてキッチンへ向かうと吉武がいた。
長めのタイトスカートに、ざっくり編まれたカーディガン。
一瞬、私服がかわいいし似合うと思ってしまった。同時に「でかけるんだろうな」とも思った。
一体誰と?
スカート姿なんて初めて見た。吉武はキョトンと首を傾げる。
「渋谷です」
「なぜ」
「なぜって……家具買いに行こうと思って」
彼女が口にしたのは、ヨーロッパの家具ブランドの店舗名だった。ここの家具は自分で組み立てるタイプのものが多い……というのは、そこの家具を所持していない俺でも知っていた。
「なにを買うんだ?」
「本棚です。カラーボックスでは足りなくなって」
「配送を頼むのか?」
「え? いえ、組み立て式だし、そう重いものでもなさそうなので、電車で持って帰ってきます」
じゃあまた、と出かけようとした吉武の腕を掴む。
気が付いたら、掴んでいた。
「なんですか……って、体調悪いですか?」
ハッとした吉武の瞳には俺しか映っていない。患者の俺しか。
それがどうしてこんなに悔しいんだ。