甘く香るあなたと、唯一無二の。
* * *
「辻、今いいか?」午後の仕事中そう言って頭上から声を掛けてきたのは一ノ瀬課長だ。
「はい、何でしょう?」パソコンから顔を上げ一ノ瀬課長の端正な顔を見つめると、いつもより眉尻が下がり明らかに困っている様子だった。一体何が一ノ瀬課長をこんなに困惑させるんだろう、と不思議に思っていると、とても言い辛そうに口を開いたかと思ったら急に頭を下げ「すまん、突然で申し訳ないんだが今日の接待に同行してもらえないだろうか」と切羽詰まった声を出す。「へ? 今日ですか? あ、はい。大丈夫ですよ」正直、なんだ、そんなことかって思った。だけど一ノ瀬課長にとってはそんなこと程度ではないみたいで「本当にすまん。恩に着る。必ず一次会で帰れるようにするから」と変わらず真剣な目で訴えかけてくる。「そんな畏まらないで下さい。営業なんですから接待も仕事のうちなのは分かってますよ」そう笑みを溢す。実際お酒の席で商談がまとまることも多く、その為に女性社員を同行させることはお決まりのパターンだった。なんてことはない。慣れていますから。心の中でそう呟いていると、一ノ瀬課長の目が真剣になった。
「辻、今、慣れてるから大丈夫って思ったよな?」
「へ?」あっさり心の声を読まれて驚く。
「こんなことに慣れなくていい。俺が実力で押し切れなかったから女性社員同行の接待なんてことになったんだ。こういう古い体質を一掃した上で実力だけで仕事を獲る為に俺はこの会社にきた」あまりに一ノ瀬課長の目が真剣だったからそれ以上何も言えなくなってしまった。
「大体、今の時代に女性社員で釣るような営業方法を俺は心底好かん」その言葉と共に、また、あの香りが漂ってきた。
朝の空気のように澄んだ清潔感のあるフローラルだけれど甘すぎない香り。
怖いと思っていた一ノ瀬課長。だけど、この人は——。
胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。
「辻、今いいか?」午後の仕事中そう言って頭上から声を掛けてきたのは一ノ瀬課長だ。
「はい、何でしょう?」パソコンから顔を上げ一ノ瀬課長の端正な顔を見つめると、いつもより眉尻が下がり明らかに困っている様子だった。一体何が一ノ瀬課長をこんなに困惑させるんだろう、と不思議に思っていると、とても言い辛そうに口を開いたかと思ったら急に頭を下げ「すまん、突然で申し訳ないんだが今日の接待に同行してもらえないだろうか」と切羽詰まった声を出す。「へ? 今日ですか? あ、はい。大丈夫ですよ」正直、なんだ、そんなことかって思った。だけど一ノ瀬課長にとってはそんなこと程度ではないみたいで「本当にすまん。恩に着る。必ず一次会で帰れるようにするから」と変わらず真剣な目で訴えかけてくる。「そんな畏まらないで下さい。営業なんですから接待も仕事のうちなのは分かってますよ」そう笑みを溢す。実際お酒の席で商談がまとまることも多く、その為に女性社員を同行させることはお決まりのパターンだった。なんてことはない。慣れていますから。心の中でそう呟いていると、一ノ瀬課長の目が真剣になった。
「辻、今、慣れてるから大丈夫って思ったよな?」
「へ?」あっさり心の声を読まれて驚く。
「こんなことに慣れなくていい。俺が実力で押し切れなかったから女性社員同行の接待なんてことになったんだ。こういう古い体質を一掃した上で実力だけで仕事を獲る為に俺はこの会社にきた」あまりに一ノ瀬課長の目が真剣だったからそれ以上何も言えなくなってしまった。
「大体、今の時代に女性社員で釣るような営業方法を俺は心底好かん」その言葉と共に、また、あの香りが漂ってきた。
朝の空気のように澄んだ清潔感のあるフローラルだけれど甘すぎない香り。
怖いと思っていた一ノ瀬課長。だけど、この人は——。
胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。