Un BUTTER


「抱かれにきた。」

 
そう一言、六神の顔を見ずにつぶやけば。


「ちょっともっかい言って。」


聞き取れているはずの六神が、私に二度目を要求する。

だから今度は、六神の目を見ながらはっきり言ってみた。


「六神と、セックスしにきた。」


言ってから後悔した。


『むーがみ!セックスしよっ!』


こう言えばよかった。こう言えばかわいかったかもしれない。もう一度言ってみても大丈夫だろうか。


「いいの。泣いてもやめないけど。」


私が三度目を迷っている間にも、先を越されて。

疑問形にも成さない言葉に、小さく頷けば。あっという間に腕を引かれて、部屋の中へと吸い込まれた。


「こいよ」
「っ、」


薄暗い玄関で、壁にぬわれるよりも先に奪われる唇。

口内をまさぐられ、全身の温度が狼煙を巻き上げて。玄関の隙間風と共に逃げ惑う。

とても待てないと、余裕なんてものはプライドと共に捨て去られ。無我夢中に齧りつくようなキスで、息する暇もなく責め立てられていく。


「んっ、ふぁ」

「息継ぎ下手くそか」

「あ、んたが、余裕なさすぎなんっ」

「喋る余裕あるならなくすけど?ん?」


荒々しい手つきで私の左手を壁にぬい合わせて、獰猛なまでの指先が私の自尊心をくすぐり始める。


「たまにはスカート履いてこいよ」

「あ、やっ、こんなとこで」

「急かしてみ?そしたらベッド連れてってやるから」

「な、に言っちゃッてんの」

「春風ならやる」

「ん"、るさいっ」


耳につく生温い水音に羞恥を煽られて、先に折れるのは私か、六神か。

 
「はや、はやくっむり、」

「あー、たまんなー」


横抱きに持ち上げられて、悪友としての私たちが幕を閉じた。



次の日、目を開けば、そこは紛れもなく六神の部屋で。

六神のベッドで、六神と身体を重ねた感触がちゃんと身体に残っていて。ちょっと頭ガンガンするけど。それが嬉しくて。ちょっと目眩がするけど。ぎゅっと布団を握りしめる。

今日が休みだという事実も、六神がキッチンに立っている現実も。ベッドの上で転がりながら噛み締めれば、また涙があふれそうになった。


「……はい、はい。いえ、こちらこそ、」 

 
六神がキッチンで誰かとスマホで通話していて、口調から仕事関係かなと思い眺めていた。私は上半身裸なのに、六神はやっぱりすでにルームウェアを着ている。


「あ、ああ、ちょうど今起きたとこでして。今替わりますので、」


私に気付いた六神が、スマホを耳にあてたまま近付いてくる。

あれ?よく見れば、私のスマホ……


「はい、」
「え、なに、」
「春風のお母さんから。」
「……へ。」
「かかってきたから出といた。」
「は?」


六神から自分のスマホを受け取ると、なぜか幸せそうな母の声が聞こえてきた。


「もしもし?」

『あら春風ー。六神君と元サヤに戻ったそうね〜、よかったわねえほんと。なんて清々しい朝なのかしらー朝からちゅんっちゅんうるさいわね鳥。』

「ああ、うん。情報通だねママ。」

『昨日の夜もね、電話したら六神くんが出て。もう寝ちゃったから今日はうちに泊まらせますって。家に帰せず申し訳ありませんって。』

「は?」

『ちゃんとしてるわよね六神くんて。ママ安心だわ〜。長男?長男だとちょっとめんどくさいわよね〜、六神くんは次男がいいわ次男!次男でありますよーに!!』


六神んち来る前に、ママには友達んち泊まるからってメッセージは入れといたけど。昨日、六神に何度か抱かれて。一旦シャワー浴びて。また抱かれ……。シャワー浴びてる時に電話してたの?


六神を見れば、私の隣に座りソルティバターを食べていた。それ食べ出したら止まらなくなるやつ。私も一個欲しいじゃん。

私の欲求に気付いたのか、六神が私の口に一つ、ソルティバターをいれてくれた。ああ血糖値が爆上がる。


『それより聞いた?今六神くん、ママのために貯金してくれてるって話!』

「なに?貯金?」

『そうなのよ〜。ママのために二世帯住宅を建ててくれるらしいわよ?いい彼でほんとよかったわねー。ママ泣いちゃうわ。』

「……に、にせたい?」

『じゃあ今日はあまり遅くならないように帰ってくるのよ。あ、それか六神くん呼んでうちで夕飯食べる?』


隣の六神が「いきまーす」と私の耳にあてるスマホに近付いて言って。ママが『きてねー!』と嬉しそうに返事を返した。


朋政先輩に外堀りから埋めるだのなんだの言ってたのはどこのどいつだ。

というか、二世帯住宅って。あったかホームが待っているとは限らないんだよ六神。


ママとの通話を切って、一呼吸おけばまたソルティバターが口に入ってきた。


「さっさと栄養補給して。」

「栄養どころか砂糖の含有量半端ないから。脂質の少ないご飯食べようよ。」

「じゃあまず軽く3回いってからね。」

「……はい?」


チャラ男のように軽い発言をする六神が、私を押し倒す。

わたし、二世帯住宅が建つまで生きていられるのだろうか。


「六神の中のゆがみくん、ポテンシャル半端ない。」

「六神の糧は春風の愛情で、ゆがみの糧は春風の身体だから。」

「私の心も身体も六神のものって?」

「六神のお名前なんですか。」

「ゆがみ千都世です。」 


そんなあんたを大好きな私も、そこそこ“ゆがみ春風”なのかもしれない。

甘いばかりじゃ物足りない。そんな私たちのストーリー。






【fin】



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