ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 私は、彼のなにに見えているだろう。
 部下? 同僚? 秘書?

 不意にそんなことが気に懸かり始める。
 見慣れない満面の笑みを目にしたからか、余計な考えばかり働く。雲の上の世界に、誤って足を踏み入れてしまったような気分だ。

 ぼんやりと思考を巡らせながら、壁に背をもたれさせた、そのとき。

「あの。ちょっとよろしいですか」

 一瞬、それが自分にかけられている声なのかどうか判断がつかなかった。キーの高い可愛らしい声が、よもやこの場所で自分にかかるとは思っていなかったからだ。
 気が抜けかけていた背中へ瞬時に電流が走り、私は大慌てで姿勢を正す。

 振り返った先には、ひとりの女性が立っていた。

 ストレートの長い黒髪に、上下オフホワイトで統一されたフェミニンなスーツ。私と同じスーツ姿だとは思えないくらい、彼女はきらびやかに見えた。
 身長は低めで、上背のある私を見上げる体勢になっている。ふと落とした視線が彼女の足元を拾い、私なら歩くことさえままならないだろう角度のついたヒールの靴が目に飛び込んできた。
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