ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「あなたですよね。奏さんと噂になってる方」

 かなでさん。
 誰のことか一瞬分からず、私はぽかんとしてしまう。

 一拍置いてから、それが沓澤代理の名前だと思い至った。いわれてみれば社長がそう呼んでいた気がする……いや、そんなことより。

 どうして外部の人が噂の詳細を知っているんだろう。
 社員の誰かと知り合いなのか。混乱を帯びた頭で考えを巡らせていると、彼女はまっすぐに私を見据えて再び口を開いた。

「私ね、昔、奏さんとお付き合いしていたの。菅野(あん)()と申します」

 菅野。
 聞き覚えがあった。
 あのとき、社長と沓澤代理が話していた名前。

『菅野さんのお嬢さんが』
『そういうのが面倒くせえんだっつの』

 以前社長室で耳にした言葉が、断片的に頭の中を走り抜けていく。
 私を見つめる彼女の目がすっと細まり、私は慌てて姿勢を正して腰を折った。
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