ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 降り際、運転席から腕を伸ばされて掴まれた。
 今日だけで何度強引に引かれたか、もう思い出せない。けれど、今のそれは強引さの欠片も宿っていない、振り払えばあっさり外れてしまうだろう緩い触れ方だった。

「……さっきは悪かった」

 掠れた声はどこまでも平坦だ。
 私も平坦に答えるべきだと思いながら、口を開く。

「いいえ、大丈夫です。それでは」

 掴まれていた腕をそっと外し、車を降り、ドアを閉める。
 深々と頭を下げることで視線を遮り、まっすぐアパートの階段へ足を進める。

 後ろは、振り返らなかった。
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