ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 二度目のキスは、一度目よりも甘かった。
 それなのに虚しい。

 心を通わせて交わしているわけではないからかもしれない。そう思ったら、自然と腕が伸びた。
 相手の胸元を突き放すように動いた私の腕にはさっぱり力が入らなかったにもかかわらず、沓澤代理の身体はあっさりと離れていく。思っていたよりもずっと簡単に、私の身体は自由になる。

「失礼、します」

 目は合わせなかった。喉に鉛でも詰まっているのかと訝しくなるほどくぐもった声が零れた後、私は車のドアノブへ指をかけた。
 抵抗できない理由もしない理由も、最初からありはしない。昇進の件も出張の件も、なんで教えてくれないのなんて、自分はそんなことを言える立場にはない。

 言葉の代わりにキスを重ねられても、私にはなにも返せない。
 あなたはなにがしたいんだろう。首の痕だって、私たちが次に会うときにはもう残っていやしないのに。

 ドアを開けて足を下ろした私を、沓澤代理は止めなかった。これ以上なにも考えずに済むよう、私は振り返らずに走ってその場を後にする。
 状況も心境も、昨晩のデジャヴかと思うくらいになにからなにまで一緒で、不覚にも泣きそうになった。
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