ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「解消は、しないから」

 掠れた声が、耳の傍から聞こえる。
 助手席の側に身を寄せた沓澤代理は、そのまま私を抱き留めた。

 解消。なんの、と聞くのは間抜けだ。でも。
 わざわざ念を押してまで、この人はなにがしたいんだ。私をどうしたいんだ。どうしたらいいのか分からず、ドキドキするというよりは途方に暮れる。

「見せて」

 唇がほとんど耳にくっついているのではと思うほど、鼓膜を直に震わせる声は近い。
 掠れた声に気を取られた瞬間、首元のスカーフをずらされた。あ、と思わず漏れた声を無視され、首をなぞられる。熱い指先が何度か首筋を往復し、その直後、同じ場所に唇を寄せられた。

 昨日と同じ場所。まるで、上塗りするような。
 声を堪えなければ、とそのためだけに神経を集中させる。鈍い痛みはすぐに終わりを告げ、痺れに似た感覚がじんじんと残った。

 目が合う。まずい。次に彼の唇が目指している場所がどこか、見当はつく。
 やわらかそうな唇。過去に一度きり、意図せず重ねてしまったことがあるそれを、私は顔を背けてぎりぎりでかわそうとして、けれどできなかった。

「ん……」

 触れては離れ、離れては触れ、幾度かそれを繰り返した後、キスは急に深くなる。
 口内に侵入を果たした熱に翻弄され、堪らず薄く目を開いた先、満足そうに笑む彼と目が合った。
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