ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 私の本心を知ったら、沓澤課長はすぐにも私から離れていくに違いない。
 彼が嫌う〝勘違い女〟になるわけには絶対にいかなかった。

 振り返ると、内藤さんが当を得ないような顔で私と沓澤課長を見比べていた。
 パート勤務の彼女は、話くらいは聞いたことがあるかもしれないけれど、おそらくは沓澤課長の顔を知らないのだ。
 一方の店長は、もちろん彼を知っている。最初こそ途中で声を止めるほどに驚いていたものの、以降の対応は至って普段通りだった。

「いらっしゃいませ、沓澤課長。那須野さん、課長と待ち合わせされてたの?」
「ち、違います。本当に偶然で」
「ふふ、そうなら言ってくれれば良かったのに。どうぞごゆっくり」

 なぜか店長は〝察してますから〟と言わんばかりだ。
 そして、不思議そうに私たちを眺める内藤さんの腕を引き、そそくさと店の奥へ引っ込んでしまった。

 気まずい。
 というか、私はもうこの店の店員ではないのだから、誰か普通に接客したほうがいいと思う。内心でツッコミを入れ、ぎくしゃくとふたり一緒に定番商品の並びへ向かう。
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