ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 沓澤課長の足の動きはスムーズだ。
 隣県の片田舎にあるこの店の商品配置について、いくら彼でもすべてを把握しているとは思えない。まっすぐ飴の売り場に足を向け、無言のまま買い物カゴに柚子はちみつの飴を三缶入れた沓澤課長を、私は半ば呆然と見つめる。

「なに」
「い、いえ。その飴の場所、よくすぐ分かったなって思って。定番商品もこまめに配置を変えてるのに」
「こないだも来たから」
「は?」

 指がぶつからないよう、彼が手を引っ込めたところを見届けてから自分も飴缶に手を伸ばす。その途中で聞こえた言葉に、私は思わず間抜けな声を零した。

 こないだも来た?
 なにをしに? まさか飴を買いに?

 ぽかんと隣を見上げると、不機嫌そうに眉を寄せる沓澤課長の横顔が覗いた。慌てて目を逸らしたけれど、一度浮かんだ疑問はなかなか頭から離れない。

 出張の間に、という話だろうか。
 新店舗準備室での業務中に、なにか用があって立ち寄ったのかもしれない。確かに、準備室は木乃田店にほど近い支社――と呼ぶよりも営業所と呼んだほうがしっくりくる規模だけれど――の中に配置されているから不自然ではない。

 ぐるぐると思考を巡らせていると、沓澤課長がぽつりと呟いた。
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