ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「へえ。じゃあナビよろしく」
「はい」

 道案内を開始して十分、ほどなくして一軒の定食屋へ到着した。
 昔懐かしい趣の残るその定食屋は、中学時代の同級生であり、バレー部の部活仲間でもあった友人、(くさ)()()(すず)()の家だ。

 のれんをくぐり、店内に足を踏み入れる。
 混み合う時間帯を幾分か過ぎたらしい店内は、だいぶ落ち着いて見える。

 その直後、空いたテーブルを片づけていた店員の女性、鈴香と目が合った。

「あっゆずー! 久しぶり! お母さん、ゆずだよゆずー!」
「あらぁゆずちゃん!? 久しぶりだねぇ、いらっしゃーい」

 他にもお客さんがいらっしゃるというのに、大きな声で厨房へ呼びかける鈴香は、相変わらず元気いっぱいだ。
 少し恥ずかしくなりつつ厨房にも視線を向けると、鈴香のお母さんが満面の笑みを浮かべて手を振っていた。その隣には、昨年結婚したばかりの鈴香の旦那さんも立っている。

「どうぞどうぞ! ってあれっ、えっとそちら様はどちら様……大変に素敵な御仁ですがまさかゆずちゃんの彼氏様とかそういう……?」
「違います職場の上司です」
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