ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 交代でメニューを眺め、とんかつ定食をふたつ頼む。
 注文を取っている間も、鈴香の両目はにやにやと三日月型に細められていて、その顔に面白みすら感じた。

 厨房に立つ鈴香のお母さんは、鈴香を指差す様子から察するに、どうやら鈴香の旦那さんに私と鈴香の関係を説明しているらしかった。
 その途中、お母さんの指先が沓澤課長を指した気がして、飲んでいた水を噴き出しそうになる。ただの上司だから、と声を張り上げるわけにもいかず、私は厨房からそっと視線を外す。

 やがて運ばれてきたとんかつ定食を前に、ふたり一緒にいただきます、と手を揃えた。

 揚げたてのとんかつは綺麗に斜め切りされていて、その切り口から漂うお肉の香しい匂いが鼻孔を擽る。微かに残る湯気まで美味しそうだ。
 箸を入れるとサクサクの衣がほろほろと崩れ落ちて、それさえももったいなく思えてしまう。口が痛くなりそうなくらい歯ごたえのある衣の後に、やわらかくジューシーな豚肉が歯に当たる。

 堪らない。久しぶりに食べたものの、相変わらず絶品だ。
 持ち帰りしたいと食べるたびに思うけれど、この揚げたてが一番美味しい。
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