ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 甘い声。甘い、嘘。
 落ちるわけにはいかない。もし試されているなら、なおさら。

 遠慮がちな抱擁はすぐに終わりを告げた。
 顔を上げたときには、沓澤課長はすでに私を見てはいなかった。逸らされた視線の先にはきっとなにがあるわけでもなく、けれど私も結局、俯くようにそちらへ視線を落とす。

「悪い。また明日な」

 すり抜けるよりも早く腕を放された。
 呆然と顔を上げた先で目が合う。笑う沓澤課長はもう、上司の顔に戻っていた。
 それを寂しいと感じること自体、間違いだ。

「はい。今日は本当にありがとうございました」

 強引に口角を上げた私の顔は、笑顔と呼ぶには無理がある代物だったはずだ。
 ドアノブに指をかけながら、返事の声が上擦ってしまったことを悟られていなければいいと、心底思った。
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