ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 ぽきんと、心が折れた音がした。
 沈黙に耐えきれなくなり、私はとうとう彼に背を向ける。あの残業の夜と同じで、目を合わせていなければひと息に言いきれる気がした。

「前から言おうと思ってたんですが、そろそろ終わりにしてもらえませんか」
「那須野」
「もう無理です。皆に嘘ついてるの、私、疲れました」

 いくら沓澤課長でもさすがに傷つくだろう。
 どちらも傷つくだけの言葉なんて、用件のみの手短なものでいい。これ以上、なにも伝える必要はない。

 そのまま、その場を後にした。
 追いかけてきてほしい。どうして追いかけてきてくれないの。そう思ってしまっている自分がいる。また同じことを思っている。他人を相手に、過去に何度も思ってきたそれを、私はまた繰り返している。

 終止符を打ったのは、自分なのに。

「ふ……」

 そろそろ、この悪い癖、卒業しないと。
 微妙に的の外れた思考を巡らせながら、私は小走りに廊下を進んだ。
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