ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 堪らず、顔を上げて睨みつけた。
 けれど沓澤課長はまったく動じた気配を見せず、真っ向から見下ろされてしまう。

 素直に謝るのは癪だった。
 そもそもあなたが余計な提案をしてこなかったらそれで済んだ話で、それなら私があなたを好きになることもなかった。こんなに息苦しい恋なんか、知らずにいられた。

 それなのに、どうしてそんな言い方ばっかり。

「いい加減にしてください。私は同情されて結婚なんて、まっぴらです」

 思ったよりも低い声が出た。
 もっと叫ぶような声が出るかと思っていたのに、それとは真逆の冷えきった声が口から零れて、私こそ意表を突かれた気分だった。

「……同情?」
「だいたい、沓澤さんはどうして私に恋人役を頼んだんですか? もっとうまく話を合わせてくれる女の人はいくらだっていたはずです」

 怪訝そうに寄せられた眉が、最後に告げたひと言によってわずかにほどける。
 睨み合う視線を先に逸らしたのは沓澤課長だった。言葉を探す素振りを見せながらも、結局なにも言わず、彼は小さな溜息を落とす。

 なにか言ってよ。弁解してよ。
 どうして私に触れたのか、どうして婚約なんて突拍子もない話を切り出してきたのか、ちゃんと説明して。

 ――溜息なんか、つかないでよ。
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