ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「息、大丈夫ですか。ゼェゼェ言ってますけど」
「うるせえ」
怒っているようにも拗ねているようにも聞こえ、緩んだ口元にとうとう笑い声が乗ってしまう。その瞬間、沓澤課長は空いた手で気恥ずかしそうに口元を覆い、「帰るぞ」と呟いた。
「え……と、どこに」
目を合わせたがらないのは余裕がないからか。それは私だって同じだ。でも。
顔を俯けてぼそぼそと喋る沓澤課長を、真正面からじっと見つめ続けていられる自分が信じられない。
しかめ顔が微かに赤く染まって見えたのは、車道を走る車のテールランプが反射したせいだけでは、きっとない。
並んで歩く。
彼の足の動きに迷いは感じられなかった。焦っている感じだけはした。
彼の自宅マンションは、職場から歩いて十分程度の場所にある。以前にも同じ場所を歩いた。
社長から頼まれた書類をバッグへ突っ込み、地図アプリを起動させたスマートフォンから目を離さず、ときおり溜息を零して……あのときは精神的にかなりつらかった。
何ヶ月も前に記憶した道と今歩いている道は、微妙に違う。
ある一角までは同じルートだったが、そこから彼は別の道を抜けていく。
「うるせえ」
怒っているようにも拗ねているようにも聞こえ、緩んだ口元にとうとう笑い声が乗ってしまう。その瞬間、沓澤課長は空いた手で気恥ずかしそうに口元を覆い、「帰るぞ」と呟いた。
「え……と、どこに」
目を合わせたがらないのは余裕がないからか。それは私だって同じだ。でも。
顔を俯けてぼそぼそと喋る沓澤課長を、真正面からじっと見つめ続けていられる自分が信じられない。
しかめ顔が微かに赤く染まって見えたのは、車道を走る車のテールランプが反射したせいだけでは、きっとない。
並んで歩く。
彼の足の動きに迷いは感じられなかった。焦っている感じだけはした。
彼の自宅マンションは、職場から歩いて十分程度の場所にある。以前にも同じ場所を歩いた。
社長から頼まれた書類をバッグへ突っ込み、地図アプリを起動させたスマートフォンから目を離さず、ときおり溜息を零して……あのときは精神的にかなりつらかった。
何ヶ月も前に記憶した道と今歩いている道は、微妙に違う。
ある一角までは同じルートだったが、そこから彼は別の道を抜けていく。