ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 細い道だ。多分、近道。
 見覚えのない道を引きずられるようにして歩き、ふと握られっぱなしの手に意識が向いた。

 こんな状態で誰が逃げるものか、と確かに思うのに、彼の指にこもった力は強まりこそしても緩みはしない。
 涼しいというよりは寒いと表現したほうが正しくなりつつある秋の夜道を辿りながら、絡まる指だけがひどく熱かった。

 結局、互いに一度も口を開かないまま、目的の場所へ到着してしまった。
 外階段を進む余裕のない足取りから想像はついたが、ドアの中に私を押し込める腕の力は強引だった。玄関に足を踏み入れるや否や、くるりと反転させられた私の身体は、面白いほど簡単に拘束されてしまう。

 明かりは点いていない。点ける気もないらしい。
 掴まれた手首が震え、それが合図だとでも言いたげに、沓澤課長は私へ顔を近づける。

 唇が今にも触れ合いそうなところまで迫られ、頬に吐息がかかる。目を逸らしたいのに、真正面からまっすぐ射抜かれた私にはとてもできない。
 薄暗い中で聞こえてくるのは、ふたり分の吐息と、壊れたのではないかと訝しくなるほどに激しく脈打つ自分の心臓音だけだ。

「もう嫌われたんだと思ってた」
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