ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
辞令の交付以来、社長室に足を踏み入れたことはなかったけれど、記憶にある室内と完全に同じだった。
私の記憶よりも遥かに古い頃から、このオフィスの中で、ここだけが昔のまま。
既視感が脳裏を過ぎって、けれど次の瞬間には、それは単に私の中に残っている記憶に他ならないと気づく。
「わざわざ悪いねぇ」
やはり間延びした声が不意に聞こえ、私は「とんでもないです」と答えながら強制的に目の前の現実に引き戻される。
「那須野さん、こっちに配属になってから一年が経ったねぇ。どうだい、今の仕事には慣れてきたかな?」
「は、はい。おかげさまで」
深く頭を下げつつ、私は用件について忙しなく考える。
ふくよかな体型をしている社長は、比較的気さくなタイプで、店舗や他営業所への訪問に関してもフットワークが軽い。協力企業や取引先にもよく出向く。今日のように社内へ留まっている日はむしろ少ない。
なんだろう。なにかやらかしたかな、私。
応接用のソファへ促され、背中を冷たいものが伝い落ちていく。
私の記憶よりも遥かに古い頃から、このオフィスの中で、ここだけが昔のまま。
既視感が脳裏を過ぎって、けれど次の瞬間には、それは単に私の中に残っている記憶に他ならないと気づく。
「わざわざ悪いねぇ」
やはり間延びした声が不意に聞こえ、私は「とんでもないです」と答えながら強制的に目の前の現実に引き戻される。
「那須野さん、こっちに配属になってから一年が経ったねぇ。どうだい、今の仕事には慣れてきたかな?」
「は、はい。おかげさまで」
深く頭を下げつつ、私は用件について忙しなく考える。
ふくよかな体型をしている社長は、比較的気さくなタイプで、店舗や他営業所への訪問に関してもフットワークが軽い。協力企業や取引先にもよく出向く。今日のように社内へ留まっている日はむしろ少ない。
なんだろう。なにかやらかしたかな、私。
応接用のソファへ促され、背中を冷たいものが伝い落ちていく。