ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 私から露骨に目を逸らして呟いた声は、どこか拗ねたような調子だ。
 感じたばかりの幼い印象に拍車がかかる。高校生とまでは言わないけれど、大学生なら十分通りそうだ。
 眼鏡をかけているということは、普段はコンタクトレンズを使っているのだろうか。眼鏡、似合ってるけどな……とまで思ってからはっとした。この状況で、私はなにを呑気なことを考えているのか。

「ええと、ちゃんと食べてます?」
「そういうのは大丈夫」

 直前の思考が反映されてか、まるで若い男の子を心配するお母さんじみた質問になってしまう。
 しかもそれに対して突き放すような声で即答され、ぴり、と背筋に緊張が走った。

 壁を感じる。場に流れる空気が、すっと温度を下げた感じが確実にあった。
 馴れ馴れしさが度を越した自覚はある。私はこの人の恋人役でしかなく、余計な干渉は一切不要。そもそも、今日こうやって自宅を訪ねていること自体が、彼にとってはきっと不本意以外の何物でもない。

「そうですか、良かったです。お大事に」
「どうも」
「それでは私はこれで……あ、そうだ」

 努めて平静を装った私の挨拶に、沓澤代理はわずかながらも安堵した様子だ。
 けれど、どうしても枯れた声が気になってしまう。
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