ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 瓶なら自室に並べて飾っても素敵だろう。ただ、缶だからかつい持ち歩きたくなる。
 大きめのバッグに、その日の朝に選んだ缶を三つ入れて出かける。それが私の朝の日課だ。店舗スタッフとして勤めていた頃から続けている、ちょっとした日課。

「これ、私が現場でお客様にお勧めして、初めて買ってもらえた商品なんです」

 懐かしさにかまけて思わず零してしまう。遊ぶように缶を軽く弾いていた沓澤代理の指の動きが、不意に止まった。
 どちらかといえば独り言。そんな調子で、私は口を開き続ける。
 視線を寄せられてはいるけれど、沓澤代理はなにも言わない。その沈黙が続きを促していると受け取るのは、さすがに思い込みが過ぎるだろうか。

「気ままに旅行してるっていう、年配のご夫婦だったんですが」

 平日に、場所も日程もなにも決めず、することはそのときの気分で決める。寝坊しても構わず、雨が降ったらそれもまた一興。
 お出かけの延長のようなのんびりした旅の合間に、その夫妻は私が勤める店へ、やはり気が赴くままといった様子で足を踏み入れた。

『息子夫婦と孫にお土産を選びたくてね。でも、あまり気取った物や高価な物というのも違う気がするの』

 奥様が丹念に商品を手に取っては見比べていて、決めあぐねていたから声をかけた。
< 55 / 242 >

この作品をシェア

pagetop