ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 断れない。
 押しの弱さも、ここまで来ると笑えない。眼前に覗くネクタイの結び目をぼうっと見つめながら、私が断れない理由は一体なんだろうと思う。

 弱々しくも真剣な声で頼み込まれているから断りにくいだけなのか、上司からの命令に等しい頼みごとだから断れないのか、それ以外の理由がなにかあるのか。
 考えれば考えるほど、靄に揉まれるように分からなくなっていく。

「……戻るか」
「あ……はい」
「先に行ってくれ。少ししてから戻る」

 煩雑に積まれたコピー用紙の束から香る真新しい紙の匂いに、鼻の奥がつんと痛む。
 今はなにを考えても、新しい答えなんて出ない気がした。小さく頷き返した私は、先に備品倉庫を後にした。
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