ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 曖昧に笑ってそう告げると、果歩は露骨に顔をしかめた。
 うわぁ、と苦々しく零した彼女の顔を見て、キスされてしまった話はしないでおこうと思う。果歩のことだ、そのような話を聞いたら怒り出すに決まっている。

 なにより、その話題に触れないままなら、あれは夢だったのかもという現実逃避を続けていられる。
 甘えにも似たその希望を、私はいまだに捨てきれずにいた。

「うーん。けどさ、ゆずにもその係をやってるメリットってちゃんとあるんだよね? 雄平は? あれから大丈夫なの?」
「あ、うん。あれから顔合わせてない。多分向こうから避けてくれてる」
「次期社長様が相手じゃねぇ。勝ち目ないって思うよね、そりゃ」
「……そうなのかな」

 そう返したそのとき、ふと、以前私を睨みつけてきた総務課の先輩社員たちの視線が思い浮かんだ。
 うろ覚えながら、彼女たちの名前も思い出せている。けれど、果歩にはそのことを伝えないほうがいいと強く思う。
 果歩にとって、彼女たちは同じ部署の先輩だ。私が余計な話をしたせいで、万が一にも果歩が仕事をしにくくなったり、総務課内の空気が悪くなったりするのは嫌だ。

「沓澤代理、いつまで続ける気なのかねぇ」
「うーん。どうだろうね」

 呟くような果歩の言葉に、私も呟くように返事をする。
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