ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 うっすらと不安を感じているのは事実だ。
 けれどそれが、終わりが見えないことに対する不安なのか、それともいつか終わりが来ることに対する不安なのか、私はすっかり見失っている。

『抵抗しない理由って訊いてもいいか』

 コーヒーカップへ伸ばした指が、ひたりと止まる。
 あの夜、私が沓澤代理を突き飛ばす勢いで逃げ帰ったために、私たちが交わした会話は彼のそのひと言で止まってしまった。

 抵抗しないわけを訊いてきた理由。
 それを不自然だと沓澤代理が判断した結果の、問いかけ。

 もしかしたら試されているのでは――不意にそんなことを思う。
 私が本当に勘違いしないタイプなのか、今後はときおりああいうふうに試していくつもりなのかもしれない。
 そう考えれば辻褄が合う。抵抗しない理由について明確な答えを述べられなかった私は、すでに彼に危険視され始めている可能性もある。

 どうしよう。焦る。
 いや、なんで焦る必要がある? それで困ること、なにかある?

 別にそれでいい。むしろそのほうがずっといい。
 平和な日々を取り戻すためのなによりの近道は、向こうに見切りをつけてもらうことだ。でも。
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