ビター × スイート
「婚約中に彼女が浮気しちゃったの。その当時、琉世の仕事が忙しすぎて、寂しくなっちゃったらしいんだよねえ・・・」

「・・・おまえは・・・、オレのことだとなんでも話すな。さっきの言葉は訂正するか。口も軽いと」

はあーーーっと、深いため息をつく四宮さん。

どうやら本当のことのよう。

婚約中・・・って、それは・・・、多分、今の私の状況よりもつらいはず・・・。

「・・・・・・、大変、でしたね・・・」

婚約中ということは、両親への紹介や、職場への報告・・・、もしかしたら、式場の手配などもしている状態だったかも。

なんて言っていいのか正解はわからなかったけど、相当つらかっただろうことだけは想像できた。

「・・・まあ、当時はそれなりに。けどもう、何年も前のことだしな」

「そうですか・・・」


(そっか・・・、四宮さんも色々あったんだ・・・)


そういえば、このお店に入っていった時、麻生さんが四宮さんに「もう彼女とかできないだろうと思ってた」って言っていたっけ。

四宮さんは、そのつらい経験をして、「彼女なんてもういらない」と思ってしまって・・・、恋愛を遠ざけているのかな。

かっこいいからモテるだろうとか、浮気なんてされないだろうとか・・・、先入観で、勝手に決めつけてしまってた。

麻生さん曰く繊細みたいだし・・・、細かいことを気にしなそうって判断も、間違っているようだった。

「・・・でも、乗り越えられてすごいです」

きっと、すごく苦しんだんだと思うから、そんな簡単に乗り越えたわけじゃないだろうって思うけど。

それでも・・・、今の私には、「当時はそれなりに」って、冷静に振り返ることができる四宮さんはすごいと思った。

「・・・別に。乗り越えようと思って何かしたっていうわけでもないし。時間とともに自然と忘れてったというか」

「自然に・・・」

そういうものか・・・、と頷きながら四宮さんの話を聞いていると、目の前で、麻生さんが「ぷくく」と静かに笑い出す。

私が「?」という顔で首を傾げると、たまらないような雰囲気で、麻生さんが「わはは」と笑った。

「琉世~!おまえ、かっこつけんなよ。相当もがき苦しんでたろー」

「・・・はあ?んなことしてねぇぞ」

「してたって。いやー・・・、僕は何度琉世の酒に付き合ったか・・・。ま、こいつはグチグチ言わず、ひたすら酒飲むだけだから、無言で付き合ってたってだけなんだけどね。しばらく大変だったなー」

「・・・・・・」

四宮さんがおもしろくなさそうな顔をした。

これまた図星のことのよう。

でも・・・、本当に仲がいいんだな。

お互い無言でお酒を飲んで、四宮さんの心がだんだん癒されて。

想像するとほっこりとして、私が少し「ふふっ」と笑うと、麻生さんが「おっ」と明るい顔になる。

「のあちゃん笑った!かわいい!やっぱ、女の子は笑顔が一番だよねー」

言われて私は、そうか、ここに来て一度も笑ってなかったのかと、ここで初めて自覚する。

でも・・・、笑えるようになったのは、四宮さんと麻生さん、ここにいる2人のおかげかも。

私は徐々に、前向きな気持ちになってくる。

「・・・私も、ちゃんと乗り越えて、元カレのことを・・・過去として、普通に話せるようになる日が来ますかね・・・」

ちょっとだけ、未来への希望を乗せて。

そんな言葉を呟くと、麻生さんが「なるなる!」と言って笑った。
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