各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
 課長は昔も今も、立場の上下関係なく皆に対して誠実だ。一見するとクールで近寄りがたい印象を与えがちだが、気分にむらがなく真摯な態度で話に耳を傾けてくれる。そんな彼に、なにをどうやったらこんな態度を取らせるまでになるのだろう。
 
 私ならとっくの昔に『すみませんでした』としっぽを巻いて退散するところだが、園田さんはなかなか引き下がろうとしない。顔を真っ赤にし、涙目で唇をかみしめている。そのガッツをもっと別のところに発揮すべきだったのでは……と考えていたら、無意識に口が動いていた。

「そんなに彼と結婚したいなら、正々堂々『好きだから結婚してください』って言ったらよかったのでは?」

 みるみる憤怒の顔になっていく園田さんを見て、ハッと我に返った。

 しまった……余計なことを言ってしまった。

 一応今の私は課長の恋人役だ。これではまるで敵に塩を送っているようなものだ。

「いえっ、あの、これはっ、親の権威をかさに着ても彼の心は動かないと言いたかったというか……」

 慌てて取り繕おうとしたら、ますますドツボにはまる。それまで私をいないかのようにまるで見ようとしなかった園田さんが、真っ赤な顔で私を睨んでいる。

 どうしたもんかと焦っていたら、横からクツクツと忍び笑いが聞こえてきた。思わず『誰のせいでこんな事態になっているのか』と恨みがましい気持ちを込めてじっとりと横目に見上げたら、課長はコホンと咳払いをして笑いを収めた。

「なによ、えらそうに……」

 聞こえた声に顔を上げると、怒りをたぎらせた目とぶつかった。彼女がテーブルおいてあるグラスを掴む。

「自分は彼女だからって余裕ぶっちゃって!」

 こちらに向かって勢いをつけてグラスを傾けるのが、スローモーションのように見えた。
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