各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
 かかっちゃう!

 顔を背けながらぎゅっと目を閉じ、水の冷たさに身構えた。

 次の瞬間。上半身を温かなものに包まれた。

 恐る恐るまぶたを開けると、視界が黒いもので塞がれている。その正体に気づくまで、数秒を要する。
 課長が私をかばったのだとわかってからも、動揺のあまり声が出せない。

「どういうことだ」

 一瞬、聞こえてきた声が誰のものかわからなかった。

「だって……その女がっ」
「たとえグラスの中身が水だろうと、相手にかけたら暴行だぞ」

 課長はさっきまでの丁寧語をやめている。地をはうように低い声で、怒りを隠そうともしていない。

「私、そんなつもりじゃっ」
「しかるべきところに届け出た上で、園田常務にも抗議させていただく」

 園田さんが一瞬で青ざめた。

「謝ります! 謝るからそれだけはやめて!」
「謝罪だけで済ませるには度を越していると思わないか?」
「じゃあどうすればっ」

 食いつくように言った園田さんに、課長は冷淡な表情を崩さない。

「今後一切俺達に関わらないと約束するなら今回だけ目をつぶる。俺との見合いは、園田常務を通してそっちから断ってくれ」

 園田さんは震える声でしぶしぶ「わかったわよ」と言い、クルリときびすを返した。

「謝罪の言葉がまだだ」

 各務課長がすかさず園田さんの背中に向かって言った。ピタリと足を止めた彼女が、顔だけ振り返って口を開こうとする――が、課長の方が早い。

「俺にではなく彼女にだ」
「……すみませんでした」

 不本意さがにじみ出た声でそう言った後、彼女は足早に私達の前から去っていった。
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