大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。
***

 旅館は、旅館街から一本奥に入った場所に、ひっそりと佇む小さな宿だった。

 入り口の木製の引き戸を開けると、自然な白檀の香りがふわりと漂う。

「ん~、この匂い、好き!」
「俺も好きだな。懐かしい感じがするよ」

 明るく品のある女将さんに案内されて入った部屋は、濃い畳の香りが満ちる和室だった。
 障子越しに差し込む光は柔らかい。

「わぁ、部屋もすごくいい感じ! 匂いもいい!」
「直前だったけど、運よくキャンセルが出たみたいでな。よかったよ」
「そうなんですよ」

 女将さんも頷きながらお茶を入れてくれる。

「ラッキーだね!」
「あぁ」

 お風呂や館内設備の説明を終えると、女将さんは静かに部屋を出て行った。
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