大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。
 だけど、神様は意地悪だった。

 帰国して千紘に会った時、俺は必死に声をかけた。姉も何かを察してくれたのか、上手くアシストしてくれた。

「千紘のこと……ずっと聞きたかった。日本に戻ってからどうしてたのかとか、あの時なんで——」

 ――なんで俺は決断できなかったのか。

 今の俺なら、そんなの結婚一択だ。
 失って初めて分かった。彼女と一緒にいられるなら、結婚でもなんでもすればよかったんだと。

 俺は過去にとらわれて、自分の一番大事なものが見えていなかった。
 彼女の気持ちが何より大切だったのに。

 そう思った時、千紘は俺を遮るように、聞いたこともない呼び方をした。

「……上廻部長」

 昔みたいにちょっと背伸びして、ちょっとかわいく『穂高』とは呼ばない。
 完全に線を引く呼び方だった。

「……私、去年、結婚しました」

 胸がつぶれるような音がした気がした。

 ――そうか、神様が意地悪なんじゃない。
 俺が『手放してはいけない手』を、あそこで離しただけだ。

「……そうか」

 千紘の左手に視線を落とすと、そこには結婚指輪が光っていた。

「おめでとう」
「ありがとうございます。なので本当に、もうプライベートで話すことはありません。過去のことですから」

 それでも俺は、諦めきれなかった。
 知りたかった、今の彼女が。

「千紘、幸せでいるんだよな」
「……はい」

 震える声でそう言った彼女は、最後まで俺の目を見なかった。
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