大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。

 放っておけばいい。もうただの部下だ。
 そう思い込もうとした。だけど、俺はどうしても気になってしまう。

 ふいに社員名簿を見た瞬間、視界が揺れた。
【桐沢千紘(旧姓)/夫:坂下匡輔(営業部)】

 相手は同じ会社の男なのか。

 驚きよりも、情けないほどの虚しさの方が大きかった。

 「会えただけで十分だろ……」

 そう思おうとした。けれど、無理だった。
 それは、彼女が昔と本当に変わってしまっていたのもある。

(……どうしたんだ、千紘は?)

 彼女は俺と一緒にいた頃のように屈託なく笑っていない。遠慮なく声を上げない。仕事だってこなしているだけの状態だ。

 ただ開発の話をしている時だけは楽しそうな顔をする。なのに翌朝は、元気もなく、真っ青な顔で出勤してくる。

 体調が悪そうなので医務室に連れて行き、恐る恐る聞いたら、絶対妊娠ではないと言っていた。

 ならなんだ……?

 明らかに何かがおかしいとわかる。
 でも、手も、もちろん口も出せない。

 俺はもうただの上司だ。
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