大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。
 考えていた時、玄関が勢いよく開いた。

「ただいまーっ!」

 匡輔が明るい声で入ってくる。妙に機嫌がいい。
機嫌のよさそうな声に安心する。

 二人なのに、機嫌の悪い険悪な雰囲気でいられると辛いからだ。
 私もできる限り口角を上げる。

「遅かったね。今日、会社も休みだからゆっくりしておくって言ってなかった?」
「ちょうど取引先から電話があって飲みに行ってさ」
「それは、大変だったね」
「まぁな」

 今日の社長就任パーティーは会社では役員以上と、あとは瑞穂さんの個人的な招待客だけだった。

 一応、匡輔にも声をかけていいと聞いたが、匡輔は『せっかくの休日だからゆっくりしておく』とパーティーには来なかった。

 結局仕事になったのなら大変だったな、と思う。

「お前も今日はパーティーだったんだろ? うまいものたくさん食えただろう」
「……うん。まあね」

 と言ったが料理を堪能する前に穂高に会ってしまったので、全然食事をしていない。
 しかし驚きのあまりなのか、お腹は減ってなかった。

「まぁお前は貧乏育ちだから、おいしいものを食べても味が分からないでもったいないだけだな。俺が代わりに食ってやりたかったよ」

 穂高の顔が一瞬頭をかすめる。

 穂高はやたら、私においしいものを食べさせたがった。
 おいしいものの味を知れば、発想も変わる。絶対いつか役に立つから。とよく言っていた。

 でも実際、そのおかげで、繊細なにおいの違いや味の違いも以前よりわかるようになって本当に今の仕事に役立っている。

 私はハッとして、慌てて首を振った。
 違う、こんな比較をするつもりじゃないのに……。

 そんな私に、突然匡輔は首を傾げた。

「で? 今日の俺のごはんは?」
「作ってないよ。もともと今日はいらないって言ってたでしょう」
「えー、せめてなんか買ってきてくれればよかったのに。今から何でもいいから作ってよ」

 もう疲れていたから寝てしまいたかった。
 でも、それを言えば、彼が不機嫌になるのが目に見える。

 二人の生活で一人が不機嫌で何日も過ごすことの胸の辛さを知っているので、私は一つ息を吐いて冷蔵庫を眺めた。

 しかし、本当に今日はストックがない。

「えっと、飲んできたんだよね? じゃあ、ラーメンはどうかな? それならなんとか……」
「なんだ、手抜きだな。俺、家に帰ったら手のこもった温かいもの食べたいタイプだっていつも言ってるよね。なんか働く意欲湧くじゃん」
「でも……ごめん、今日はないや」

「それくらいちゃんとしとけよ。嫁の仕事だろ。まぁ、もうラーメンでいいや。先風呂に入ってくるから上がってくる頃にあわせて作っといて」

 そう言いながら、彼はジャケットを放り出して、バスルームに向かった。
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