大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。
お風呂から上がった匡輔は、髪をタオルで雑に拭きながら、そのままテーブルへどさっと腰を下ろした。
私は出来上がったラーメンを彼の前において、彼の向かい側にそっと腰を下ろす。
「そういえばね、この近くに新しいカフェができてるよね。今度休みの日に行ってみない?」
「もったいないよ。家でコーヒー飲んだ方が経済的だろ」
匡輔はお金に関しては筋金入りの節約家だった。
毎日の食事は必ず手作りにしてほしい、と強く言われてから、私は基本定時で上がらざるを得なくなった。
もともと研究職は裁量性で、残業代が出るシステムではないので、給与は変わらないが……。
家事が得意ではない私にとって、毎日の食事作りは正直プレッシャーだった。
けれど、それでも……働く二人なら、たまには外でコーヒーくらい飲みたい。
少しだけ肩の力を抜いて話せる場所が欲しかった。
「あ……うん。でも、ふたりとも働いているし……たまの休み、ゆっくりコーヒーを飲んで話せたらって思ったんだけど……」
「家で十分だろ。もったいないって。節約しろよ」
そうきっぱり言って、彼はスマホを手にして食べ出した。
取引先からの突然の連絡もあるし、ずっと見ていないと、と彼は言うのだ。
前は行儀が悪いでしょ、と注意していたが、最近は注意するのを諦めた。
私は手持無沙汰でテレビをつける。
そこではクイズ番組が繰り広げられていた。画面に映る男性が、少し穂高に似ていると思った。
「そういえば、今日——」
口に出した瞬間、穂高のことを話そうとしたのだと気づいて、慌てて言葉を飲み込む。
しかし、彼はそんな私の発言も全く聞こえてないようで、スマホに夢中だ。
考えてみれば、いつも私からしか話しかけてない。そして話しかけても否定で終わり、会話が続くことはない。
私は少しして「おやすみ」と寝室に逃げるように入った。匡輔からは何も声はかけられない。
こんなふうになるのは普通なんだろう。よく聞く話だ。
私が選んだ結果で、これが結婚した責任……。
——明日から仕事ではよろしくな。部下として、期待してる。
急に穂高のあの声が響いて、私は目を閉じる。
これから彼と働くのは少し怖いと思っていた。