辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

さよなら、ドノヴァン侯国

ファティマがアレイオンに乗って
颯爽と門前へ現れた瞬間——
城の中は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

「ファティマ様が……帰還なさった!?」
「本物か!? ドラゴニアに……殺されてしまったと聞いたが……!」

侍従も執事も下働きの者たちも涙ぐみ、
歓喜と安堵で
ファティマの周りはすぐにいっぱいになった。

しかし——
扉の向こうから姿を現したドノヴァン侯は、
凍りついたような顔。
「……生きていたのか。」

それだけ。
声には驚きではなく“警戒”がにじんでいた。

「ドラゴニア帝国は……何を企んでいるんだ……?」

怯えたように後ずさる夫の様子に、
ファティマは胸の奥が冷たくなる。

「お前を戻す代わりに何か要求されたのではないだろうな!?まさか、我が領地を差し出せなど——!」

「何もされていません。」
淡々と返すファティマ。

その瞬間、
侯はまるで安堵したように肩の力を抜いた。

「……なら、さっさと働け。
 お前の仕事が山ほど溜まっている。」

まるで家具でも扱うように
吐き捨てられた。
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