辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
ファティマが連れてこられた執務室は——地獄だった。

床に散らばる書類。
未決裁の山。
机には封も切られていない外交文書。
職員たちは疲弊し、
机に突っ伏しそうな顔。

「ファティマ様ぁぁぁ!!
 助けてください!書類が、書類がもう……!」

「何週間も滞っておりまして……!
 ドノヴァン侯は内容を理解なさらず、すべて『お前がやれ』と……!」

泣きつかれ、
ファティマは深く息をつく。

(……これは、ひどい。)

逃げられない臣下たちの恐怖と疲弊。
侯国の政治は崩壊寸前だった。

ファティマは袖をまくり、
小さく頷いた。
「……わかりました。やりましょう。全部。」

そして地獄のような日々が
また始まったのだった。
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