辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
それ以降も、
ファティマの毎日は幸せそのものだった。

朝、離宮の広い窓から差し込む光に目を覚ますと、
庭からは子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
離宮には
デクランの姉・セレナが
里帰りで連れてきている子どもたちが
よく遊びに来ており、
ファティマはその小さな訪問者たちの
人気者になっていたのだ。

「ファティマ様、これ見て!」
「昨日の続き、遊ぼう!」

子どもたちの無邪気な声に、
ファティマは自然と笑顔になる。
ドラゴニアやドノヴァンの宮廷では
決して味わえなかった、“家の温かさ”。
それはファティマの胸に
じんわり広がり、
癒やしとなっていった。

また、
離宮の外を歩けば、
商人たちが明るく声を掛けてくれる。

「今日も綺麗だねえ、お嬢さん!」
「デクラン王子と仲良くやんなよ!」

ファティマは最初こそ恥ずかしがっていたが、
次第にアズールティア特有の
ざっくりした陽気さを楽しめるようになった。
かつて外交で
各国の王宮を歩いた彼女とは思えないほど、
すっかり“地元のお姉さん”のように馴染んでいた。
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