辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
再会もそこそこに王宮に戻った後、
ラジワは持参した報告書を机に置くと、
怒りを隠さない声で言った。

「クレオール兄様が……お姉様にしたこと。私は……絶対に許せないわ。お姉様ほどの女性をあんな辺境の小国に厄介払いするなんて!」

ファティマは静かに眼を伏せた。
「いいのよ、ラジワ。あなたが怒ってくれただけで、私は十分よ。」

だがラジワは首を横に振った。
「ビンセントも同じ気持ちだったのよ。
だからこそ、彼は国中を駆け回って……支持を集め、国を立て直そうとしているの。
まぁ結果としてクレオール兄様は……自ら破滅の道を選んだけど。」

ラジワは少しだけ表情を曇らせた。
「……最後は、悲しいくらいに孤独だったそうよ。」

ファティマは胸の奥にわずかな痛みを覚えたが、
それでも今の平穏を抱きしめるように両手を重ねた。

その後、
ラジワはアズールティアを
ファティマに案内されて散策した。
家の前で揺れる花飾り、
子どもたちの笑い声、
民たちに自然に声をかけるファティマの姿。

そして——彼女を迎えに現れた青年を見て、
ラジワは思わず目を細める。

「まぁ……あの方がデクラン王子ね?」
「ええ。今は彼が、私を支えてくれているの。」

ラジワはニヤリと笑う。
「お姉様、ご自分のお顔を鏡で見られたことがあって?あんな顔で誰かを見るなんて……面白いものを見たわ。」

「ちょ、ちょっとラジワ!」

「だって本当よ?
誇り高くて、いつも毅然としていたお姉様が……あんな優しい目をするなんて。」

赤面したファティマを見て、
ラジワは楽しそうに肩をすくめた。

「でも本当に良かった……。
お姉様がこんなに幸せそうで、私まで嬉しい。」

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